薬丸岳さんの天使のナイフを読みました
読んでみるまで、作者の薬丸岳さんも天使のナイフがドラマ化されていることも知らなかったのですが…想像以上の社会派本格ミステリーで、大満足でした
あらすじ
犯人は、13歳の少年だった。
娘の目の前で、桧山貴志の妻は殺された。犯人が13歳の少年3人だったため、罪に問われることはなかった。4年後、犯人の1人が殺され、桧山が疑われる。「殺してやりたかった。でも俺は殺していない」。法とは、正義とは。デビュー作にして、少年犯罪小説・唯一無二の金字塔。
興味深かったところ
少年犯罪について
娘と二人暮らしをする父親である主人公は、妻を少年たちに殺害された被害者遺族でもあります
少年法のため、裁判内容や少年たちのことは何も知らされていない主人公は、事件の真相を探りながら、被害者遺族の立場から少年法やその更生について向かい合っていきます
読み始めは、少年犯罪と更生、そして被害者への贖罪というテーマを扱った社会文学なのかと思いました
少年法についてはニュースでも取り上げられる機会が多いのですが、この小説を通じて被害者の目線からの更生について詳しく知ることができました
どの立場で、どんな意見を持つかは人それぞれです。ただ、司法だけの目線や更生だけの目線では簡単に判断できないので、私にとっては天使のナイフを読んだことがいい機会になりました
異なる立場や異なる考えの登場人物たちが、事件に向かい合っていく姿に、私自身も考えさせられました

Youtubeの街録チャンネルにて、少年刑務所の話をする方のインタビューを見たことがあったので、とてもいいきっかけになりました
本格ミステリー
後半から、徐々にそれぞれの登場人物がどんな形でどの事件にかかわっていたのかが、明らかになっていきます
司法から見たら、裁判も終わり少年たちも出所しているため、すべて事件は完結しているように見えますが、主人公がなぜ妻が殺害されたのかを探りながら、妻の過去にも迫っていきます
事件の加害者になったり、被害者になったり。恨みや復讐が新しい事件につながったり
つながりや事件の全貌が最後までなかなかつかめず、最後まで楽しめるミステリーでした

いろいろな登場人物がいるため、やはり最後も少年法やその更生については考えさせられることになりました
さいごに
社会文学でもあり、本格ミステリーでもあり、両方で楽しめる本でした
最近になって、自分の過去や本当の気持ちを”カミングアウト”する、つまり社会や他人からしたら受け入れがたそうなことを自らが告白することが、話題になっています
すべての過去をさらけ出して生きていくべき、とは思いません…しかし、人はみな過去の出来事の積み重ねで今があるとしたら、自分だけでなく関わった人や出来事と向き合うこともまた、自分の今を作っていくのではないかと感じました
”天使のナイフ”とありますが、いったい誰が天使だったのか…
少しでも興味持たれた方は、ぜひ読んでみてください
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